子育て家庭ユニットの声〜中根真ユニット長〜
「最新の声」では、各ユニットにおけるこれまでの活動状況をお知らせいたします。
1.はじめに
当ユニットは、子育て家庭の社会的孤立に焦点を当てて、その実態把握ならびにその緩和・解消の具体的な可能性を探索することを目標としています。
子育て家庭も多種多様であるため、どこに焦点を当てるのか検討した結果、児童虐待の末に子どもが死亡するに至った一群の最悪事例の詳細な検討が、子育て家庭の社会的孤立を生み出す背景やメカニズム、子どもや保護者の社会的に追い詰められた状況を本質的に理解する近道になるのではないか、という大きな仮説を立て、研究しているところです。
具体的には、オンライン月例研究会を通して、重要文献の輪読と知見の整理を基本としています。社会福祉学のほか、心理学、栄養学、教育学の各研究者がそれぞれの学問領域の関心から事例を選んで、報告し、質疑応答を重ねていくという方法を採っています。これにより、学際的な議論、子育て家庭の多面的・多角的な理解が期待されます。これまで共通テキストとして読んだ文献は、川﨑二三彦=増沢高『日本の児童虐待重大事件2000−2010』(福村出版、2014年)です。著者の川﨑二三彦先生は、児童相談所の勤務経験があり、全部で25件の重大事件の背景等をコンパクトに整理されています。この資料を活用して、子育て家庭が社会的孤立に至るということはどういうことなのか、各専門領域から分析しているところです。今後は、適宜、ゲスト研究者・実務家の招聘によるコンサルテーション、シンポジウムなどを通して、後述するパンフレットに盛り込む内容を精選・集約する予定です。
2.目指す研究成果
子育て家庭の社会的孤立に関する保育者・教職向けの啓発パンフレットの作成です。本ユニットの研究者全員が、短期大学部こども教育学科で保育者(保育士・幼稚園教諭)養成に従事しています。そのため、本ユニットの研究成果は、直接的には在学生や卒業生、保育実習園・施設、教育実習園に対して、さらに間接的には四年制学部の教職志望学生に対して、それぞれ還元したいと考えています。
3.オンライン月例研究会の実施
2022年度の実施概要は以下の通りです。
第1回 | 4月26日(火)19:00~21:00 | キックオフ情報交換、研究懇談会 |
第2回 |
5月23日(月)18:00~20:00
|
研究の進め方(年間計画、研究費の執行等)、各研究者の興味・関心の確認 |
第3回 |
6月27日(月)18:00~21:00
|
研究懇談会、キックオフ・イベント用のパワーポイント資料の確認 |
第4回 |
7月26日(火)18:00~20:00
|
2023年度(第48回)学術研究計画調書の作成①
|
第5回 |
8月11日(木)15:00~17:00
|
2023年度(第48回)学術研究計画調書の作成②
|
第6回 |
8月22日(月)19:00~20:00
|
2023年度(第48回)学術研究計画調書の作成③、下半期(10~3月)計画の確認 |
第7回 |
9月26日(火)19:00~20:00
|
研究懇談会 |
第8回 |
10月17日(月)1800~20:00
|
研究懇談会(児童養護施設職員を招聘) |
第9回 |
10月24日(月)19:00~21:00
|
研究成果の中間報告と共有①(中根) |
第10回 |
11月28日(月)19:00~21:00
|
研究成果の中間報告と共有②(広川、赤澤) |
第11回 |
1月23日(月)18:00~20:00
|
研究成果の中間報告と共有③(堺、野口)、公開イベントの企画・立案① |
第12回 | 1月23日(月)18:00~20:00 | ラウンドテーブル(オンライン)の企画・立案② |
第13回 | 2月27日(月)19:00~21:00 | ラウンドテーブル(オンライン)の最終確認・調整 |
第14回 | 3月4日(土)12:00~12:20 | 第1回ラウンドテーブル(オンライン)終了後の反省 |
第15回 | 3月14日(火)12:00~12:30 | 第2回ラウンドテーブル(オンライン)終了後の反省 |
第16回 | 3月19日(日)12:00~12:30 | 第3回ラウンドテーブル(オンライン)終了後の反省 |
上記研究会に加え、全3回にわたるラウンドテーブル(オンライン)を実施しました。
詳細は、当センターホームページをご覧ください。
>>LINK: 【子育て家庭ユニット】第1回ラウンドテーブル(オンライン)を開催
>>LINK: 【子育て家庭ユニット】第2回ラウンドテーブル(オンライン)を開催
>>LINK: 【子育て家庭ユニット】第3回ラウンドテーブル(オンライン)を開催
4.おわりに
月例研究会において事例を取り上げて、社会福祉学、教育学、心理学、栄養学の各研究者がそれぞれの視点と方法から報告することで、その学問背景の違いから、子育て家庭の社会的孤立に関する多面的・多角的な検証に着手しています。他方で、これまで児童虐待に関する多種多様な先行研究が蓄積されてきたことは事実であり、私たちのユニット研究でも参考にしているところですが、社会的孤立の視点に立った学際的研究の展開例は珍しいのかもしれません。それは、虐待されていて命の危機にある子どもの保護・救済が最優先になることから、起きたことの背景や経緯を検証することが後回しになってきたのではないかと感じています。
2022年12月の研究会では、イギリスの児童虐待の検証制度の紹介論文を取りあげました。イギリスでもやはり、虐待による死亡例の検証システムに関する取り組みは長年行われており、加害者である親の当事者性を徹底的に理解する姿勢が弱かったという視点に立って、現在の法的検証制度があるという報告を共有しました。私たちは研究会を重ねるなか、これまで加害者である親の置かれた社会的孤立状態が明らかにされてこなかったことがわかりました。まるで「特殊な親が突発的に起こした事件」のような取り上げられ方をされています。そして、いくつも同様の残念な事例があるにも関わらず、再発の防止が叫ばれながらも、実際には防止ができていないということに気がつきました。また、イギリスでは保護者や加害親の置かれた状況に寄り添うようなシステムが構築されつつあることに対して、日本の場合は、問題意識を強く持っているルポライターが裁判の傍聴や関係者の聞き取りにもとづくドキュメンタリーとして背景や実情を説明しているに留まっています。
私たちの研究がどこまで迫れるかはわかりませんが、毎日繰り返される虐待報道を目にしているにも関わらず、親がどのように追い込まれた結果、当該行為に至ったのかを丁寧に検証する必要があります。このような点で、学術的な独創性・創造性に繋がるのではと考えて、研究を進めています。