SIRC 龍谷大学 社会的孤立回復支援研究センター | Social Isolation Recovery Supports Research Center, Ryukoku University

Voices最新の声

ATA-netユニットの声〜石塚伸一ユニット長〜

「最新の声」では、各ユニットにおけるこれまでの活動状況をお知らせいたします。

石塚伸一名誉教授

1.はじめに

 アディクション・トランス・アドヴォカシーネットワーク(ATA-net)ユニットは、アディクション(addiction)を「孤立の病」と捉えています。その現象形態である物質依存・暴力行為・性問題行動・窃盗症・ギャンブリング・ゲーム依存・携帯依存等の多様な嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するゆるやかなネットワークの構築とその社会実装を目的としています。
 当ユニットの主な研究開発事業は、龍谷大学ATA-net研究センターによる支援のもと、RISTEXから受託した課題共有型“えんたく”の研究開発・社会実装事業です。本事業は2022年3月を以て終了、ATA-net研究センターと当ユニットが連携協力して同事業を継承してきましたが、ATA-net研究センターは、2023年3月を以て終了したため、今後は、当ユニットが主体となり、本学犯罪学研究センターの治療的司法ユニットと連携協力し、一般社団法人刑事司法未来(CJF)の支援を受けながら、事業を展開する予定です。

 

2.研究成果
(1)国際連携(海外各種団体との協定締結)  
 日本学術振興会「二国間交流事業(共同研究・セミナー)」(相手国:タイ、振興会対応機関:NRCT、2020年度~3年間)では、新型コロナウイルス感染症拡大の中、インターネットを活用し、タイ側メンバーとの合同会議を2ヶ月に1回、日本側メンバー会議を毎月1回行い、互いに研究成果の報告などを行いました。2022年5月に日本側メンバーがタイへ渡航し調査研究を、6月にオンライン研究会を実施しました。また、11月にタイ側メンバーが来日し、日本調査を行うとともに、合同シンポジウムを開催しました。日本研究メンバーの研究活動報告は、矯正・保護総合センター研究年報第12号(2023年2月刊行)に掲載されています。

 

(2)学会報告
 2022年度、石塚伸一がヨーロッパ犯罪学会(於:スぺイン・マラガ)に参加し、「Penal Reforms in Japan: Prison Sentences with Forced Labor and Rehabilitative treatment as Punishment.(日本における刑罰改革:懲役刑と刑罰としての改善更生)」について報告を行いました。

 

(3)社会連携
 再犯防止を推進するための新たな基盤づくりを目標に、「京都府再犯防止の推進に関する研修会」(主催:京都府)を計3回開催、『“つまずき”からの“立ち直り”を支援するためのハンドブック』(2021年3月発行)で取り扱った内容をもとに、ユニット長の石塚伸一と嘱託研究員の山口裕貴が講師を、当センターリサーチアシスタントの暮井真絵子がファシリテーショングラフィックを担当しました。同研修会は、ATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”を活用しています。

 

 2022年度の実施状況は下記の通りです。

 2022年10月19日 第3回京都府再犯防止研修“えんたく”(龍谷大学深草キャンパス至心館1階、矯正・保護総合センター内のフリースペース)

 2023年1月26日 第4回京都府再犯防止研修“えんたく”「生きづらさを抱えた『若い人たち』の居場所づくり研修会」)(龍谷大学深草キャンパス至心館1階、矯正・保護総合センター内のフリースペース)
 2023年2月20日 第5回京都府再犯防止研修“えんたく” 「“ウィズコロナの環境における子どもたちの居場所”について考える研修会」(京都府中丹広域振興局第1会議室)

 

 

(4)若手研究者の育成
①元ATA-net研究センターの暮井真絵子は、2022年度からSIRCのRAに就任し、本学法学部の非常勤講師として「法政入門演習」および「法政ブリッジセミナー」を担当しています。ATA-net研究センターの嘱託研究員として研究活動に参加しています。
②元ATA-net研究センターの山口裕貴は、 2022年度から一般社団法人刑事司法未来(CJF)のスタッフとして、研究支援を行うとともに、ATA-net研究センターの嘱託研究員として本学の研究活動に参加しています。

 

(5)大学院教育
修士レベルの教育に関して、タイ国マヒドン大学及び「薬物需要削減のための国際大学コンソーシアム(ICUDDR)」と連携して、薬物依存回復に関する国際専門家資格取得制度の導入を検討しました。また、博士レベルの教育に関しては、英国カーディフ大学、オーストラリア国立大学、カナダ・サイモンフレーザー大学などと連携して、海外留学のためのアジアの研究拠点の構築を検討しました。

 

(6)研究成果物
 公表した研究成果物は以下の2点です。研究メンバーがそれぞれ執筆を担当しています。
①石塚伸一他編著『大麻使用は犯罪か?: 大麻政策とダイバーシティ』(現代人文社、2022年)
・石塚伸一=加藤武士「大麻使用は犯罪か?−科学的エビデンスで考える−」
・丸山泰弘「日本の大麻問題とポルトガルの実践」
・暮井真絵子「諸外国と日本の大麻政策・薬物政策を考える」
・山口裕貴「大麻論争とダイバーシティー(多様性)」
②石塚伸一監修矯正・保護総合センター研究年報第12号(2023年2月刊行)「二国間交流事業共同研究・吉田緑嘱託研究員「〔論説〕タイの薬物政策改革〜2022年5月大麻解禁前夜のタイから〜」矯正・保護総合センター研究年報第12号(2023年2月刊行)
・丸山泰弘嘱託研究員「〔論説〕2022年・タイ薬物法典と薬物政策の転換」
・吉田緑嘱託研究員「〔研究ノート〕バン・ラムン・ホスピタル(Bang Lamung Hospital)を訪問して」
・舟越美夏嘱託研究員「〔研究ノート〕タイの国立病院におけるカナビス伝統医療の視察について〜パンナット・ニコム病院(Phanat Nikhom Hospital)を訪問して〜」
・加藤武士嘱託研究員「〔研究ノート〕大麻解禁政策の社会・経済的影響」
・石塚伸一「〔翻訳〕総括〜日本=タイ合同シンポジウム2022年11月〜」

 

(7)その他
 二カ国交流事業では、タイによる調査研究報告会(2022年6月11日)と合同シンポジウム(2022年11月5日)を開催しました。

 

3. おわりに

 2023年度も引き続きタイとの「二国間交流事業(共同研究・セミナー)を行います。加えて、地方自治体と連携協力し、“アディクション”からの回復のための綜合的支援のネットワークの構築事業を展開していく予定です。大学院教育については、大学全体の大学院改革と連携して事業を進めていきたいと考えています。