“つまずき”回復エコシステム開発ユニットの声〜深尾昌峰ユニット長〜
「最新の声」では、各ユニットにおけるこれまでの活動状況をお知らせいたします。
1.はじめに
当ユニットでは、“つまずき”理論の構築に向けた実践分析とその検証を行っています。また副次的にそれらの社会的な実践をサポートするために必要なエコシステムや伴走支援の検討を行うとともに、インパクト評価の手法とその基準開発を行います。社会的孤立に対してアプローチをしている非営利組織やソーシャルビジネス主体の参与観察・伴走支援・事業開発をユニットとして行い、支援者の支援プログラムの確立を目指しています。資金支援では、インパクト投資、ESG投資など、社会的金融などが主流で、その軸となっているのが「インパクト評価」という金銭換算をした評価が中心になってきています。そこで、批判的検討を含めた当事者の活動を支えるエコシステム開発を、今一度検討したいと考えています。
本ユニットが研究・調査対象とするエコシステム形成主体は、全国盲ろう者協会と各地域の当事者団体です。目が見えず、耳も聞こえない方たちの多くは、社会的に孤立状態にあります。これらの人々に支援が届けられていないケースが多く、当事者やニーズが少ない領域で資金支援が不足していたり、支援組織の運営基盤が弱い場合が多いこと、とりわけ広範なエリアに当事者が散らばっている場合、支援組織の人員・リソースでカバーできないことが多いことが理由として挙げられます。そのため、家族が中心となって支えている場合が多いこともあり、これらの団体が上手く機能できていないことが考えられます。
2.「盲ろう者(deafblind)」とは
視覚と聴覚の両方に障害がある状態をいい、一般的には以下4つのタイプに分けることができます。
聞こえない | 聞こえにくい | |
見えない | 全盲ろう | 全盲難聴 |
見えにくい | 弱視ろう | 弱視難聴 |
障がいや日常生活を送ることができる程度、授障時期もさまざまでそれぞれに合った支援・コミュニケーション手段が必要とされます。2012年度の調査によれば、上記障がいを持つ人々は、全国に少なくとも1万4,000人いると推計されていますが、実際に支援団体に登録して、通訳・介助サービスを利用している盲ろう者は、全国で約1,000名程度とされています。
3.盲ろう者の抱える日常的困難
盲ろう者の3大困難といわれているのが、「コミュニケーション」、「情報の入手」、「移動」です。
まず、コミュニケーションの面では、相手の声が聞こえず、筆談された文字も読めないこと、移動の面では、信号の色が見えにくく、車の音も聞こえないこと、情報入手の面では、日常の文章や新聞、細かい文字が読めないこと等が挙げられます。
加えて、盲ろうの子どもたちへの教育が確立されておらず、それぞれの学校が手探りで実施していると言われています。とりわけ、幼い頃に全盲状態になった子どもは、概念自体を捉えることが困難です。
このように、生活の基本的な部分に困難があり、かつ、それぞれの困難は複合的なもので、1つの困難だけを解消したとしても、盲ろう者の生活のしづらさは解消されません。
4.盲ろう当事者が抱える孤独と社会からの孤立
全国盲ろう者協会(2013)「盲ろう者に関する実態調査報告書」297頁以下によれば、自分で自由に外出できない、目が見えないと料理が何でも作れない、食べたいものが作れない、生活が苦しい、テレビがはっきり見えないなど、生活全般に関する困難やニーズが生の声として挙げられ、支援団体が盲ろう当事者にリーチできていないことがわかります。
このようにしてみると、行政はリストを持っているものの、支援団体とつながるかどうかは当事者と家族次第で、家庭という閉鎖的な環境で生活やケアが行われています。
盲ろう者の移動・生活をサポートする、介助者(通訳、介助、同行、介護)が不足しており、特に指通訳者が不足しています。また、既存の福祉サービスへの接続が困難であるという点が非常に重要で、通訳を派遣する、移動のサポートをするという制度はあるものの、これらのサービスへ実質的にアクセスできる人が少ないだけでなく、サービスを提供する側が供給できていないという問題もあります。制度は作ったけれども、運用が上手くいかないことで、孤立・孤独を作出されている状況にあることがわかります。
5.具体的な活動
盲ろう当事者への継続的なヒアリングや地域の当事者組織への伴走支援及び参与観察と通して、これまでの延長線上にあっても、これらの組織や団体がなかなかエンパワーメントされないことがわかりました。これを踏まえると、①既存の福祉概念をとわられずに議論を行うフレームワークの作出、②資金支援を支える新たなインフラの理論、実践の両方の検討、③当事者性を支えるインパクト評価の可能性の探求を行いたいと考えています。
2022年度は、地域内の盲ろう者の掘り起こしに向けたパンフレットの作成、広報活動や戸別訪問、同行援護事業所開設のための法人格(NPO法人)の取得、事務所の借り上げ、専門人材の確保、関係行政庁への開設手続きを経て、同行援護事業所を開設しました。加えて、地域の盲ろう者団体の会員増加との相乗効果を狙った盲ろう者の交流会、各種行事等の団体活動の活性化を目指しました。
6.おわりに
今後の展望として、地域内の盲ろう者の掘り起こし活動を継続しながら、地域の盲ろう者団体が設置する同行援護事業による盲ろう者への移動とコミュニケーション支援の提供、同行援護事業所の経営の安定化、地域の盲ろう者団体の財政基盤および組織基盤の強化、盲ろう者のコミュニケーション技術習得などに向けた新たな活動の展開をしていきたいと思います。