SIRC 龍谷大学 社会的孤立回復支援研究センター | Social Isolation Recovery Supports Research Center, Ryukoku University

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関係支援

講演会&シンポジウム「不登校・ひきこもりなど社会的孤立への家族支援」開催レポート

不登校・ひきこもりの本人不在のなか、家族支援はどうあるべきか


2023年10月22日、社会的孤立回復支援研究センターの関係支援ユニット(赤津玲子ユニット長/本学心理学部教授)とシステムズアプローチユニット(吉川悟ユニット長/本学心理学部教授)の共催で、講演会&シンポジウム「不登校・ひきこもりなど社会的孤立への家族支援」を本学大宮キャンパス東黌101(京都市下京区七条通大宮東入大工町125-1)で開催し、約120名が参加しました。

はじめに、赤津玲子ユニット長(本学心理学部教授)が開会の挨拶および講師紹介を行いました。

赤津玲子本学心理学部教授・関係支援ユニット長

 

第1部・講演会は、「アナザールート〜学校を選ばない子ども・家族の支援〜」と題し、岡田隆介氏(医師)より、お話しいただきました。

 

岡田氏は、多くの子どもたちが社会に出るまで「学校」というルートを通る一方で、集団生活に苦痛や疲労を感じたことをきっかけに、家族や地域、インターネット等の環境で作られた「アナザールート」を選択する子どもがいること、どちらを選ぶかは、選択が異なるだけであることを前提に、次のように述べました。

 

「学校では、日々、競争したり、協調しなければならず、子どもが不安や怒りを覚える場合がある。それに見合うような価値を学校に見出し辛くなる。また学校には、時間割や行事等の変化があるが、変化がない生活を好む子どももいる。」、「家庭においても、達成感や役に立ったという感覚を持つことが可能である。また、人生は小さな選択の繰り返しであるため、日常生活のなかで自ら選択する経験をするのが重要である。」、「一般的には、身体の不調を訴える子どもに対し、学校不適合というラベリングをすることがある。しかし、それを『心の叫び』であると決めつけずに、「身体の軋み」としてアプローチすることで、その不調を解消できる場合がある。」と述べました。

 

加えて、発達障がいを有する子どもについては、「発達障がいは個性であり、得手不得手があって良い。得意なことがあることは、強みである。その個性を有効に伸ばすということが重要になる。」と述べました。

 

最後に、「かつての不登校やひきこもりは、社会と隔絶されていたが、インターネットが普及した現代では、社会との接点を持つことが可能である。かつての接し方に捕らわれずに、周囲の対応もアップデートすることが必要なのではないだろうか。」と述べて、講演を終えました。

岡田隆介氏

 

 

続いて、第2部・シンポジウムでは、「不登校・ひきこもりの本人不在の親面接への対応 」と題し、意見交換が行われました。

 

シンポジウムは、家族支援に携わる長谷川智広氏(京都市教育相談総合センター)、高林学氏(本学心理学部教授)、上野温子氏(社会福祉法人つむぎ福祉会)の3名から話題提供を受け、議論を行いました。

 

まず、長谷川智広氏は、不登校に関する全国調査を元に、過去と近年における不登校の要因を分析したうえで、次のように述べました。「安心感の欠如は、特に対人関係や学習において疲労や無気力感を引き起こし、登校意欲を低下させる。安心感は重要である一方、学校では成長を促進させる必要があるため、そのバランスが求められる。不登校の場合、専門家が関与する際に、子どもに侵襲感を与えるリスクがあるため、慎重なアプローチが必要である。支援は、保護者の気づきを参考にしながら、子どもに安心感を与えることを短期的な目標として行うべきである。」と述べました。

長谷川智弘氏

 

次に、高林学教授は、児童相談所での相談支援を中心に、次のように述べました。

 

「児童相談所に寄せられる相談のなかには、保護者が子どもを施設入所させたいと希望するケースがある。このような場合、まず施設入所を希望する家族の思いをうかがい、施設入所が適当か否かを検討することが重要である。不登校や養育上の課題解決のためには、一時保護が適切な場合もあるが、まずは、家庭内での課題解決を検討する必要がある。解決意欲の低い家族には、情報提供や提案を通じて意識変革を促し、良い変化を認知することが重要である。親面接では、新しいアプローチは、将来的に生じうる困難を避ける方法であることを説明し、理解を得ることに加え、実践するためのフォローが不可欠である。」と述べました。

高林学本学心理学部教授

 

最後に、上野温子氏は、ひきこもり支援を継続させる工夫について、厚労省によるひきこもりの定義のうち、精神疾患がある場合を除いたケースを中心に、次のように述べました。

 

支援にあたり重視している点について、「まず、来所した経緯を確認し、動機付けの程度を把握することである。次に、悪循環となり得る家庭内のルール等が存在するかを把握することである。また、両親が来談した場合、本人と情報共有がなされているのかの確認も必要である。加えて、ひきこもり期間が長いと、経緯を話すだけで時間を要するため、まずは、本人の現状と両親の関わり方やその様子を尋ねる必要がある。」と述べました。

 

次に、支援を継続するための工夫として、「動機付けが低い場合や継続して来談すること自体が難しい場合がある。このような場合、家族の行動について丁寧に聞き取りしたうえで、来談者の負担にならないような提案を複数提示する。来談者自らが選択し持ち帰る提案を『お土産』と呼んでいる。そして、来談者自身が、『お土産』を実践、その様子を観察し、次回以降の来談時に共有する。家族が悪循環を自覚し、それを断ち切ることが重要。個々の家族に適した生活支援を行う必要がある。」と述べました。

上野温子氏

 

その後、講師の岡田氏を交え、議論が行われました。

 

来談する家族がもつ可能性を引き出す点で共通していること、家族支援特有の支援の困難さ、カウンセラーとクライアントや家族との対等性を維持する方法、保護者の行動の背景にある事情や理由を把握することの重要性、何とか家族関係を変えたいと考える専門家と、変わりたくないと考える当事者の矛盾への対応等、それぞれの立場から活発な意見交換が行われ、盛会のうちにシンポジウムを終了しました。

シンポジウムの様子

 

参加者からはアンケートを通じて、「アナザールートという表現がとても印象的であった」や「対応の工夫等、すぐに実践できる内容で有意義な企画だった」といった感想が寄せられました。