“ウィズコロナの環境における子どもたちの居場所”について考える研修会@舞鶴市を実施【ATA-net研究センター/犯罪学研究センター】
ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたく”を活用
ポイント● 龍谷大学は、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」を締結し、2020年度より事業を開始。● 2020年度には、犯罪学研究センターの学術的知見をもとに、犯罪や非行をした人たちの実情や立ち直り支援の活動を伝えるハンドブックを発行。● 2021年度から、オール京都で再犯防止を推進するための新たな基盤づくりを目標に、ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたく”を活用した研修の5回目を開催。コロナ禍における子供たちにスポットを当て、居場所づくりの課題を共に検討 |
2016年の『再犯防止推進法』制定によって、地方自治体においても再犯防止事業に関する法令の整備および事業計画の策定が求められたことから、犯罪学者の協力が求められる機会が増えています。当センターにも複数の自治体から要請があり、研究メンバーが専門家として関与し、研究から得たエビデンス等の社会実装に努めています。
これらの活動を踏まえ、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、2020年度には石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長・ATA-net研究センター長)が監修者となり『“つまずき”からの“立ち直り”を支援するためのハンドブック』を発行しました。
【>>関連News】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8272.html
2021年度から「京都府再犯防止の推進に関する研修会」と題し、このハンドブックで取り扱った内容やハンドブックから着想を得て、研修会を開催してきました。今回は、「生きづらさを抱えた『若い人たち』の居場所づくり研修会」として、第5回目の研修会を行いました。
【>>関連News:第1回研修会】
【>>関連News:第2回研修会】
【>>関連News:第3回研修会】
【>>関連News:第4回研修会】
今回は、京都府中丹広域振興局(京都府舞鶴市) 第1会議室にて、課題共有型“えんたく”会議を行いました。
府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、若年層に関わる保護司、少年補導委員、フリースクールの教員、養護施設の職員など、多様な立場から約40名が参加しました。行政機関や地域社会において何ができるのか、「自分ごと」として一緒に考えて、理解を深めることを目的としました。
研修の司会は、山口裕貴氏(ATA-net研究センター・嘱託研究員)が担当し、ATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。ここで共有された話題は、ファシリテーショングラフィックとして暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)がホワイトボードにまとめました。
はじめに、舞鶴市で保護司活動をされている方より、これまでの経験談を交えながら、子どもたちの困りごとについて話題提供を行いました。次に、これまで子どもたち(若年層)への支援に多方面から関与してきたステークホルダー3名(フリースクール副代表・養護施設の施設長、少年補導委員連絡協議会会長)が、組織上の立場だけではなく、それぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。そこでは、子どもたち(若年層)の生きづらさの要因やその発見過程、居場所や環境づくりの意義、支援を巡る問題まで多岐にわたり課題が共有されました。
つづいて設けられたシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれて話し合いを行い、課題を共有しました。ここで話し合われた課題は、グループごとに画用紙にまとめ、フロア全体でその内容を共有しました。各グループでは、「何かを要求されない場所だからこそ、“自分はこうしたい”という意思が表れるのではないか」、「ただ美味しいものを食べる、作る時間も食べる時間も楽しく」、「居場所のマッチングアプリ」、「臨機応変な支援策を」、「被支援者のニーズにのみ応えていくこと」、「居場所を維持することの難しさ」、「支援者をサポートする環境も」などが話題に挙がったことがわかりました。ここでも、居場所の重要性や具体的な支援策やアイディア、支援の困難性について幅広く話し合われました。
会の後半では、ステークホルダーと話題提供者がそれぞれコメントを行い、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。
最後に、暮井真絵子氏がファシリテーショングラフィックに沿って“えんたく”会議を振り返りました。
“えんたく”終了後には、石塚伸一教授(本学法学部・ATA-net研究センター長)が自身の体験を交えながら、これまで感じてきた若年層の生きづらさや居場所についてコメントしました。そして、「今、法務省が力を入れている『改善更生』について、みんな『改善更正』と思いがちだが、『改善更生』(生きる)である。『更生』は『甦る』ことである。本人たちが生き返ってゆくことだが、再犯防止というテーマを考える時、『更生保護』という言葉も大切にしたい。本人だけでなく、周りも一緒に生きていく社会を大切にしたい。」と述べ、今回の“えんたく”を締めくくりました。
【>>Link】「えんたくトライアルのためのガイドライン 2020.09版」
補注:
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定
2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、再犯の防止等に関する施策を実施等する責務が、国だけでなく地方公共団体にもあること(第4条)が明記されるとともに、都道府県及び市町村に対して、国の再犯防止推進計画を勘案し、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務(第8条第1項)が課されました。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、庁内のすべての関連部局が連携し、再犯防止施策を推進していくこととしています。
参照:京都府HP https://www.pref.kyoto.jp/anshin/news/kyotei.html
*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
アディクション(嗜癖・嗜虐行動)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、その当事者の回復を支えうるさまざまな状況にある人々が集まり、課題を共有し、解決に繋げるための、ゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの場が必要です。石塚教授が代表をつとめる研究プロジェクト「ATA-net(Addiction Trans-Advocacy network)」では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を“えんたく“”と名づけ、さまざまなアディクションからの回復支援に役立てることをめざしています。
地域円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに区分され、今回は府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、矯正施設職員、保護観察官、保護司を含むボランティアなど、受刑者の社会復帰に携わる多様な関係者を交えて、課題共有型・Cタイプ(Collaborators)の“えんたく”を行いました。